はじめに
修士卒業後、約10年務めた会社を辞めました。半分は円満退職、半分は「もう辞めてやる!!」という怒りです。
この記事ではJTCな前職1の何に不満を思ってなぜベンチャーに飛び込んだのか、またそれぞれのメリットデメリットなどを書き連ねることで、私の転職経験を記録しておこうと思います。転職を考えている人たちの参考になれば幸いです。
前職はどんな会社だったか
身バレしない程度に前職について説明します。
前職は社員1000人以上の大企業でした。大手食品企業の研究職として新卒から働いていました。
部署にもよりますが総じてホワイトで、私も毎月の残業は五時間未満でした。生活残業してる人はちらほらいたかも。
新卒で入ったばかりの頃は創薬研究に集中していたのですが、数年前に異動してからは自由裁量で基礎に近い研究をしていました。研究計画や予算組みのところは社内政治的な力学がそれなりに働いており、鶴の一声で非合理的に思える仕事をする羽目にもそれなりになりましたね。世の中にはもっとひどいところがあるのを知ってますが。。
JTCの体質にうんざりして辞めた
実は新卒で入社して以来JTCらしさにうんざりしていて、いずれ辞めるつもりでした。
JTCらしさとは何か?私が思うJTCらしさとは年功序列やプライドが最優先されるために非合理的なことばっかりしていることです。会議のための会議のための会議があったり、若手の意見が軽んじられたり、ろくな質疑応答もしないくせに毎月の定例会では30-50人くらい集まったり。
入社一年目の頃は「なんでこんな意味ないことしてるんですか?」と堂々ともの申してましたが、二年後くらいには、ああ言っても無駄だな、と思って意見するのはやめました。
最終的な決め手は上司その他2への不満でしたが、ここに至るまでに積もり積もったJTCへのヘイトが最高潮に達していたのも大きな要因だったと思います。
JTC前職のここが嫌い 年功序列は最悪のシステムである
これが本当に良くないと思います。私の前職では入社3年に満たない若手はいくら頑張っても年収500万に達しません。とんでもないヒット商品を作り出そうと、競争力のある特許を出願しようと、絶対にです。
仕事の才能は誰にでも宿りうるものです。とんでもない成果を入社一年目から出す可能性だって十分あるにもかかわらず、ジェネラリスト育成講座が施行停止で実施されます。成果を出しても給料は上がらない。「いくら頑張ってもそれを正当に評価されないじゃないか」と絶望し、若手はやる気を無くしていきます。その上、上の年代に目を向けると、会議で寝ていて普段から言われたことしかやらない(なんなら言われたこともできない)ようなオジサンが普通に管理職待遇で年収一千万ですからね。そりゃやる気なくしますよ。
ただ、30代過ぎると、今度は年収がぐーんと増えてくるんですよね。だから中年にさしかかると「昔辛酸舐めさせられた分、回収してやるか」という気持ちでそのまま年功序列に乗ってしまう。そのまま年功序列の列車に乗った施行停止オジサンは漏れなく無能になります。そういう人を何人も見ました。(その人の過去はあくまで伝聞形ですけど)
私が辞める直前には色々と制度変更があってこの辺もてこ入れされてましたが、本質的に年功序列が変わらない以上システムは良くならないでしょうね。カースト制度並に現代に合っていません。
JTC前職のここが嫌い タイヤのゴム並の柔軟性
あらゆる企業は社会的情勢の変化に柔軟に対応する必要があるのは言うまでもありません。こうした変化にどう対応できるか、という重要な試金石がコロナ対応でした。
前職は緊急事態宣言の三日後に対応を発表、以降全ての判断は国と自治体の判断に準ずるもの(在宅勤務の割合や会食に関する取り決め)でした。何一つ、自らで判断していなかったのです。
ちなみに前職は健康産業に関わる会社だったのですが、コロナ関係の判断で何一つ能動的なアクションが無かったので「この会社、さては心の底から日本人の健康を願ってないな?」と疑問に思ってしまったんですね。
とはいえ意思決定のスピードが遅くなるのにはある種仕方ない部分があると思っています。とにかく会社が大きいため、一律のルールを本社が策定すると工場も研究も事務にも対応出来るようにせねばなりません。そのため判断が遅れます。コロナの関係であれば現場・課長・部長・事業所長・本社人事・本社人事担当役員と、恐ろしく長い意思決定プロセスであったことでしょう。
現場の意見が上に届きやすい土壌や、各事業所への大幅な権限委譲があればもうちょっとマシでしょうが、私の前職は工場も研究も営業も同じ勤務体系ルールが適用されるくらいに頭が固い会社でした。いや本当今思うと、なんでフレックスすら無かったんだろう。細胞培養の実験で土日も会社行ったり、早朝や深夜に一瞬だけ実験したりしてましたが、フレックス無かったのでその日は残業つきまくりでしたね。ただ、少しフォローしておくと、働きやすさは最高に良かったです。無理な残業はありませんでしたし、休日出勤もちゃんと代休が取れます。余計な残業が発生しないよう、不用意な会社滞在はタイムカードで警告がでるようになっていました。
私はこの10年近くで意思決定の遅さを様々な場面で目撃して、自分が偉くなったときにどう改善してやろうかと思ったものですが、コロナという突発的な事象に対する対応が後手後手かつ受動的なのを見る限り「この会社の柔軟性はタイヤのゴム並だな」と思いました。柔軟性が無いことはないんです。一見すると対応できているんですが、本質的には何も変わってないんです。ずっとタイヤの形のまま。恐らく組織のありかたの問題なので、一介のサラリーマンがどうこうできる話では無いと思います。経営者がなんとかするしかないんでしょう。経営って大変ですね。
JTC前職のここが嫌い 危機感が無い
私のいた会社は大企業かつ利益も伸び続けていた会社でした。それもあり、とにかく全社員に危機感がありません。全てがのんびりしています。一つの実験の結果を出すのに2~3週間かかってもそこまで怒られません。
結果出してない人は「他にも仕事があるから・・・」と言い訳しますが、どうせ仕事と言ってもろくに発言もしない無意味な会議や意思決定できない上長のための書類作成だったりするので、会社によっては本来発生しない業務ではないでしょうか。私はある時「あれ、俺なんでこの一ヶ月研究せずにずっとパワポ作ってんだろ」と我に返り、「てかそもそも社内向けの資料のクオリティなんてよそじゃもっと低いかもしれないよな」と思ったらとんでもなく無駄なことをしている気になりました。
危機感の無さの表れかどうか分かりませんが、私のいた会社では管理職の中でも新聞を読んでる人は少数派だったのが印象的でした。昔の上司が消費税増税を知らなかった時はさすがにどうかしてると思いました。Yahooニュース程度を読んでるという人はそれなりに居ますが、Yahooニュースだけではニュースをもとに自分の考えを形成できないでしょう。せめて日経新聞とか、CNNとか、ある程度マシなメディアをメインに情報収集していないと、海外と取引のある会社の管理職は務まらないと思うんですけどねー。
ただ正直、私もぬるま湯につかった彼らを批判できません。自分自身ぬるま湯を心地よく思っていた節があったからです。確かに業務で英語を使わないし、世界情勢なんて知らずに自分のラボに閉じこもってるだけではクビには絶対なりません。多分犯罪でも犯さない限りクビにならないまであります。その代わり、海外のパートナーとのビジネスチャンスを逃していたかもしれませんが、起きてもいないことを悔やむことなんてできませんからね。知らぬが仏です。多分、入社5年目くらいまでは私も無知サイドでした。危機感あるつもりでしたが、今思えばカスみたいな危機感です。「プリゴジンの反乱はどうなるのだろうか」という危機感が普通だとするなら、当時の私の危機感は「明日雨降るかなあ」程度です。
JTCのいいところ
などと前職の悪口を言ってきましたが、何も日本人の全員が前職のようなJTCを嫌いになるわけじゃないと思います。
まず、JTCはなんと言っても本当に居心地が良いです。年功序列列車にで30代まで乗っていけば、定時に帰っても十分生活できる程度は確実に行ってるでしょう。こういったぬるま湯は作ろうと思っても簡単に作れるものではありません。高校時代に一所懸命勉強して大学受験の戦争を勝ち抜き、就活にも勝ち抜いて初めて得られるのが年功序列の新卒採用ですから、それを反故にするのはもったいないと考えることもできるでしょう。
他の良いところを言うと、JTC企業の社員になると責任が分散するので気楽に仕事ができます。基本的に社員は自分にや自分の部署に責任が集中するのを嫌いますので、大人数で集まった会議で合意形成を行うことにより意思決定がなされます。なんでもかんでも話し合いと会議で解決です。それ故失敗してもそこまで苦しむことが無いし、誰の責任にもならないことがあります。本当に仕事が気楽にできますよ。しかし誰の責任にもならないが故に、なぜ失敗したのかが一生追求されないこともしばしば。
合う人には本当に合う環境だと思います。強いプレッシャーのもとで働くのが性に合わない人とか、そもそも仕事がそんなに好きじゃないとか、家庭を最優先したい人とかには前職は本当にマッチングするでしょうね。
私はスリルが欲しかったし、仕事が好きだったので性に合いませんでしたが。
なぜベンチャーに転職したのか?
こうして私はLogomixというバイオベンチャーへ転職を決意したのですが、なぜベンチャーの選んだのかとよく聞かれます。一言で言えば、別にベンチャーに行きたかったわけでは無くLogomixという一つの会社の未来に興味を持ったからです。
転職活動ではまず、前職で持っていた不満が解決される会社を選ぶことが大前提でした。そこで、年功序列ではなく、合理的な意思決定ができるような会社をカジュアル面談などを通じて探すことになります。しかし探してみると面白いもので、この辺をクリアする会社はザラにあるんですね。大手や大企業でもちらほらありました。ベンチャーは言うまでも無く、年功序列のところは見たことないですが。
その上でもう一つ重要視したのは、経営層の未来にかける意気込みです。何社かベンチャーのCXOとお話をさせていただく機会があったので、良い機会だと思って5年後と10年後の未来について必ずお聞きしていました。堅実に一歩ずつ付き重ねていく未来や、ワールドワイドに人の健康にコミットしていく未来など、経営者の数だけ思い描く未来の姿はあるんだなあと思いました。その中でも、LogomixCSOの相澤先生が語る、ゲノム編集で世界を変えるという未来にはわくわくする夢がありましたし、それを実現させるだけの強い熱意を感じました。また、LogomixCEOの石倉さんは歴戦のベンチャー経営者として、会社がユニコーン企業になることを本気で目指している意志の強さ(というか確信)を、淡々とした語り口から感じました。素直にこの人達と働いてみたいなと思ったのが転職の決め手です。
ベンチャーに転職して良かったこと
意思決定が早い
言うまでもないですが、少人数なので意思決定が早いです。また、プロジェクトの見通しについて事前に話を通しておけば、購入申請などなど色々と話しが早いです。体感として、前職では二ヶ月かかっていた意思決定のイテレーションが、現職では一二週間で回っている感覚があります。とにかく恐ろしく早くイテレーションを回しています。
優秀な同僚からいい刺激を受けられる
入社して思ったことは、まず研究員の同僚が全員優秀ということです。正直ヤッベ、と思いました。うかうかしてらんないなと。私は同僚たちほど実験できないし、本当に短期間でたくさんのことを検証していて素直に凄いと思える方達です。それだけに、「この分野だったらこの人に任せよう」といった感じで、良い具合にお互いに依存し合えているのが良い環境だと感じます。
現職でも前職と同じように朝から晩までデータ解析に明け暮れているのは変わりませんが、同僚たちが毎日新しいデータをひっさげてくるので退屈しませんね。
前職の非合理的なプロセスがITで解決された
大手だったらあるあるだと思うのですが、とりあえずクラウド禁止、とりあえずGitHub禁止みたいな非合理的なルールってあるじゃないですか。いやお前リスク検討したことないだろ、って情シスに言いたくなるような話。それが一切なくなったのが本当に楽です。
以前はオンプレのクラスターサーバーに本社のプロキシサーバー通してたので、データDLの際など事あるごとに不具合が発生していました。オンプレのサーバーが停止してしまったときとかはもう地獄です。またデータ共有のシステムが無かったので、わざわざNASを立てたりもしましたね。
現職ではAWSからスタートアップ支援として約300万円のクレジットをいただいたので、AWS環境を一から構築し、どこからでも仕事ができるようになりました。データの共有はクラウドストレージを使って効率化されていますし、連絡もSlackでスピーディーに行われています。ミーティングは基本Zoomなどを使っていますが、要件が終われば即座にミーティングが終わりますし、必要とあらばフォローのためにF2Fで話し合いをすることもあり、柔軟にやっています。
前職ではこうした話し合いとか意思決定とかでストレスを感じることが非常に多かったのですが、そんなことは全て解決。その上でもっとクリエイティブなところに頭を使えるようになって本当に良かったと思います。
ほんとに、ろくに誰も質疑しないような会議になーんで二時間とかかけてたのか。謎です3。
即戦力として働ける
解決すべき業務課題は山ほどあるので、自分のスキルをいかんなく発揮できます。もちろん、会社の業務課題と自分のスキルがマッチングしていることは前提ですが、そんなことは採用試験中にちゃんと見られているので心配ご無用です。
私はまず入社前に取得された次世代シーケンサーのデータを解析することが最初のミッションだったので、AWSの環境作りと解析に奔走しました。ついでにシェルをfishに変えたり、Neovimの設定みなおしたりして、楽しくやれました。
ベンチャーに向いてる人と向いてない人
ここまで書いたとおり、私はとにかく転職に満足しています。自分は本不満が全て解消された上で新しいステージでチャレンジができるようになり、当に転職して良かったと思っています。
一方、ベンチャーに勤めてみて、「ベンチャーに向かない人も世の中には大多数いるな」と思ったので、誰かの参考になってくれればという気持ちでお伝えします。
転換期はめまぐるしい
会社にもよるし、時期にもよるとは思いますが、私の場合はかなりの転換期に入社してしまったようです。一週間単位で大きな意思決定が発生するので、立ち止まって今の仕事がルーティーン化するみたいなことがありません。常に変化し続けています。
自分の頭で考えて行動するのが好きなタイプでければ「なんだよまた方針転換かよ」となるかもしれません。でも実際には全ての経緯について情報共有されているので、「しゃーないし、頑張るしかないな!」という風に私は思っています。前職のゆったりのんびりと比べると結構しんどいですが、頑張るしかないと思えば割と楽しめます。
不足は必ずある
多くの場合設立から間もないのがベンチャーですから、色々なものが足りてないです。例えば福利厚生の手厚さは前職に比べればかなり減りました(前職が大盤振る舞いすぎた)。人的リソースが足りてないみたいなところも結構見えるので、色々と万全な状態ではないんだなと感じます。ぶっちゃけ不便なことは多い。
とはいえ、目下成長中の会社ですし、不足は提案や改善で着実に埋まっていきます。こうした不足を自分でなんとかできるのは喜びが大きいかもしれません。
一つ例を挙げると、現職では購買システムが無いため見積もりや注文がメール・電話ベースとなっています。全て手動でエクセルへ転機するのは大変な手間で、担当者の業務負担はあまりに大きい。しかしLogomixはまだ小さな会社なので購買システムを導入するほどの取引量もなく、導入は絶望的。
そんなお困りご意見を私に寄せて貰ったので、とりあえずサクッと実装できる見積もりPDFパーサーアプリを作ってあげたところ、業務効率爆上がりとのことで大層喜んでもらえました。「自分の力で穴を埋められたんだ」という確かな実感がとてもモチベを上げてくれます。
不足はある。不満なら自分でなんとかすればいい。こう考えられれば、不満はないようなものだと思います。これを面倒と思うなら、ベンチャーは合わないかもしれません。少人数ならこの手の提案・改善はして当たり前だと思われているからです。
めちゃくちゃ現実主義
バイオベンチャーならほとんど売り上げがないところも多いかと思います。ウチもまだまだそうです。VC・投資家の方々から集めた資金で事業化を目指しているので、本当に遊んでる場合じゃないです。たまにそういう殺気を経営陣から感じます。ベーシックな研究なんてしてる場合じゃない(もちろん事業に寄与するベーシックな実験は歓迎されています)ので、興味のままに実験をしたい人は楽しくないかもしれません。
私は学生の頃から「薬なんて上市してナンボだろ」とか思ってた質なので、この辺は全く違和感なしです。
現在企業で働いてて、ちょっとアカデミアに戻りたいかもという気持ちから大学発ベンチャーへの転職を目指す、という人がもしかしたらいるかもしれません(知り合いにいました)。が、止めた方がいいかもしれません。ベンチャーを起業する先生はアカデミア研究では不十分だと思ったから起業したはずですもんね。
リスクを取る必要は・・・無いかも?
ベンチャーだとリスクが高いとか思われがちですよね。でも、「ベンチャーは常にリスクを取りに行って大きなリターンを狙っている」っていうのは全然違うかなと思っています。
まだベンチャーに転職して数ヶ月なので自信ないですが、そこまで会社はリスクを取りに行ってるわけではないように思います。ちゃんと計画を立てて色々な物事が動いてますし、少なくとも会社として無茶な博打は全くしてません。とんでもない挑戦ばっかしているのは事実ですが、勝算が無ければしない挑戦ばかりなのである種堅実かもしれません。
自分自身、今後仮に転職することがあったとしても自分のスキルアップの場として今の職場は活きてますし、転職でリスクを取りに行ったとは思っていません。まあ多少不安はありましたけど、入社前から経営陣を信用していたので将来に不安は無かったです。
最後に
ということで、今回はLogomixに転職するまでと、転職してからの話を少し書いてみました。転職を考えている誰かの参考になれば幸いです。
これまでは「某企業の駆け出しバイオインフォマティシャン」を名乗ってましたが、これからは「株式会社Logomixのバイオインフォマティシャン」として様々な情報発信をしていこうと思っていますので、よろしくお願いします!